被災者視点

復興のカレンダー

『生活再建7要素』によって、被災者自身の復興に必要な要素が判明し、その要素間の関係を分析することで、何がきっかけで「生活復興感」を高めることにつながるのかが分かりました。しかし復興とは、あるタイミングで一斉に成し遂げられるような“点”の概念ではなく、少しずつ変化をしていく時間経過を伴った“線”のようなものです。そこで、被災者個人の生活復興過程の全体像を明らかにするために開発されたのが『生活復興カレンダー(復旧・復興カレンダー)』と呼ばれるものです。

具体的には、阪神・淡路大震災や2004年に発生した新潟県中越地震などのこれまでの災害において、多くの被災者が生活再建の節目と感じた重大なイベントに対して、それがいつ頃に起こったものなのかをカレンダーに印をつけてもらう質問表から作成されました。生活再建の節目となったイベントは下記の11の項目になります。

  • ① 被害の全体像がつかめた
  • ② 不自由な暮らしが当分続くと覚悟した
  • ③ 毎日の生活が落ち着いた
  • ④ もう安全だと思った
  • ⑤ 仕事・学校がもとに戻った
  • ⑥ 家計への震災の影響がなくなった
  • ⑦ すまいの問題が最終的に解決した
  • ⑧ 地域の活動がもとに戻った
  • ⑨ 自分が被災者だと意識しなくなった
  • ⑩ 地域の道路がもとに戻った
  • ⑪ 地域経済が震災の影響を脱した
  • ※⑧・⑩は2004年新潟県中越地震以降に追加された項目

これらの各イベントに対して、「そう思った」と回答した人が累積で50%を超えた時期を、それぞれの節目となった時期(閾値「いきち・しきいち」)と定義し、復興の度合いを分析するものです。

阪神・淡路大震災の場合、被災者の半数以上が「不自由な暮らしが当分続くと覚悟した(②)」のは“震災当日の午後”、「被害の全体像がつかめた(①)」のは“震災当日の夜中”でした。「もう安全だと思った(④)」のは震災から“3週間後”、「仕事・学校がもとに戻った(⑤)」と感じたのは、震災から“1ヵ月後”でした。また、「毎日の生活が落ちついた(③)」「すまいの問題が最終的に解決した(⑦)」と感じたのは“約半年後”で、1年が経過する頃になると「家計への震災の影響がなくなった(⑥)」「自分が被災者だと意識しなくなった(⑨)」としています。
一方、過半数の人が「地域経済が震災の影響を脱した(⑧)」と感じるまでには、震災から“10年”の歳月を必要としました。また、10年経っても約2割の人が「自分を被災者」だと感じ続けていることも分かりました。

この『生活復興カレンダー』は、阪神・淡路大震災のような都市災害以外にも適用が可能です。例えば、2004年新潟県中越地震の復興の様子を、阪神・淡路大震災の復興の様子に重ねてみると、2つの復興が基本的に同じ順序で進んでいることがわかります。もちろん、被災地や被害規模によってカレンダーの特徴は変わってきますが、2つの震災に共通の9つのイベントが過半数を超えてく順番は同様の過程を辿っています。
その他、2007年新潟県中越沖地震や2004年スマトラ島沖地震津波、水害である2011年紀伊半島豪雨災害などの事例でも同様の結果を示しており、今後、被災地の自治体が復興計画を進めていく上で、被災者がどのような復興過程を辿っていくのかという“復興の全体像”を把握しておくことは、災害発生後のそれぞれの時点で行うべき効果的な対応を考えるための基礎資料になります。